「副業でちょっとせどりをやってみようと思うのだけど、それでも開業届を出すべき?」
「開業届を出すと、具体的にどんなメリットがあるんだろう?」
個人事業主としてビジネスを始めるときに、開業届というものを出すルールがあることは、多くの人に知られています。
しかし、それがたとえば副業としてせどりを始めるときにも適用されるものなのか、詳しいことが分からない方も多いのではないでしょうか。「ちょっとやってみるだけなのだから、開業届なんていらないのでは?」と考えるのは自然なことです。
本記事では、開業届の必要性について解説するとともに、開業届を提出するメリットやデメリット、具体的な提出方法などについても言及します。
せどりと開業届の関係
せどりは参入障壁の低いビジネスであるため、軽い気持ちで始める方も少なくありません。その場合には開業届は必要ないのでは、という気にもなります。しかし実際にはほとんどのケースにおいて、開業届を提出するのがおすすめとなります。
ここでは、せどりと開業届の関係について、以下の3つに分けて解説します。
- 開業届とは?
- 開業届を出す適切なタイミングはいつ?
- 開業届を出さないとどうなる?
開業届に関するよくある疑問について、以下で一通り説明してあります。せどりに興味のある方はぜひ頭に入れておいてください。
開業届とは?
開業届とは、以下の3種類のいずれかの事業を始める場合に、所轄の税務署長に宛てて提出しなければならないものです。
- 事業所得
- 不動産所得
- 山林所得
開業届は、所得税に関する届出書の一種です。どの所得に該当する事業を始めるのか、誰がどの場所で事業を始めるのかといった情報を記入します。
基本的に自分の手で提出するものですが、たとえば初めから税理士と顧問契約をした場合などは、税理士に代わりに作成し提出してもらうこともできます。自分で作成するのが不安で、かつ税理士費用を支払うことに抵抗のない方は、プロの力を借りるのも一つの選択肢でしょう。
せどりは上記の3種類の所得のうち「事業所得」に該当するため、開業届を出す際には事業所得にチェックをつける必要があります。
開業届を出す適切なタイミングはいつ?
開業届を出すタイミングは、所得税法によって定められています。所得税法第229条には、『その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。』とあり、これは「開業日から1ヶ月以内」と解釈されています。
問題は、開業日はいつになるのかということです。
結論として、所得税における開業日は任意となります。これから事業を始める個人事業主が、好きに決めてよいという意味です。既に仕入を始めていたとしても、開業日をたとえば来週や来月にすることも不可能ではありません。
しかしもちろん、分かりやすく説得力のある日を開業日と設定するのが妥当ではあるでしょう。せどりの場合であれば、仕入先のフリマサービスに登録をした日や、初めて仕入を行った日を開業日とするのが自然な形といえます。
開業届を出さないとどうなる?
結論からいいますと、開業届を出さないまませどりを続けることは可能です。開業届を出さないと、税務署があなたの事業を認識できないままとなります。しかし確定申告をきちんと行うのであれば、納めるべき税金を納めるわけですから問題は発生しません。
しかし開業届を提出していないままだと、個人事業主や中小事業者のための制度を活用できないデメリットがあります。
たとえば2019年には、キャッシュレス決済による買い物をしたときにポイント還元を受けられる制度が実施されました。しかしこの制度を適用するには、利用先のECサイトなどに開業届を提出していることが必須でした。開業届を提出していなかった多くの事業者は、このタイミングで開業届を提出する必要に迫られたのです。
参考:キャッシュレス・ポイント還元事業(2019年10月~2020年6月)(METI/経済産業省)
今後も似たような制度が実施される可能性があります。開業届の提出に費用はかからないため、あらかじめ提出しておくことをおすすめします。
せどりを始めるにあたって開業届を出す5つのメリット
せどりを始めたいと考えている方が開業届を出すメリットとしては、以下の5つが挙げられます。
- 青色申告ができるようになる
- 屋号を持つことができる
- 法人用のクレジットカードを作れる
- 事業を始めてすぐ小規模企業共済に加入できる
- 補助金や助成金の申請ができる
ほぼ共通しているのは、資金面や資金の管理面で助かる場面が多くなることです。以下の解説を読んで、具体的に何を享受できるのか頭に入れておきましょう。
青色申告ができるようになる
開業届を提出することで、確定申告の方法として青色申告を選択できるようになります。青色申告を選択しない場合は、自動的に白色申告となります。
青色申告は、一定の水準できちんと記帳することなどと引き換えに、いくつかの税制上の有利な扱いを受けられる仕組みです。青色申告の具体的なメリットは以下のようなものです。
項目 | 具体的な内容 |
青色申告特別控除 | 課税所得を計算する際、最大65万円の特別控除を受けられる |
青色事業専従者給与 | 家族に支払う給与を経費として計上できる |
損失の繰越しと繰戻し | 赤字が出た場合、損失を翌年以降3年間繰り越して各年度の所得金額から控除できる |
青色申告で確定申告するためには、事業開始から2ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出しなければいけません。
屋号を持つことができる
開業届を提出することで、屋号を持つことが可能となります。
屋号とは、個人事業主が事業を行うときに使用する事業名です。基本的に自由に決められますが「○○株式会社」など法人と誤解される名称は使用できません。
屋号を持ちたい場合は、開業届を提出する際に屋号も記載するか、あるいは次回の確定申告の際に記載して提出します。
屋号を持つメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 屋号を記載した名刺やWebサイトを持つことで、事業の信頼度が上がる
- 顧客に名前を記憶してもらいやすくなり、リピートなどが期待できる
- 屋号の名義で銀行口座を開設でき、個人資産との区別を付けやすくなる
主に取引先の心情面で、よい効果をもたらすものであるといえるでしょう。
法人用のクレジットカードを作れる
開業届を提出することによって、個人でも法人用のクレジットカードを所持できます。多くのクレジットカードには個人用と法人用があり、法人用は開業届を提出し個人事業主とならない限り個人には発行されません。
法人用のクレジットカードを作るメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 個人の資産と事業用の資産を分離することで、お金の管理がしやすくなる
- 法人用クレジットカードを会計ソフトと連携することで、記帳などを効率化できる
- クレジットカードの柔軟な支払い方法を事業に活用することで、資金繰りがしやすくなる
- 積極的に法人用クレジットカードを使用することで、信用履歴を積み重ねられる
主に金銭面の管理がしやすくなる点で、恩恵を受けられます。
事業を始めてすぐ小規模企業共済に加入できる
小規模企業共済とは、中小機構が運営する退職金制度のことで、小規模企業の経営者や個人事業主などを対象としています。6ヶ月以上積み立てることで、廃業した際に共済金を受け取れます。
これから事業を始めるというときに、事業を終えるときのことを考えるのは気が早すぎる、と思う方も多いかもしれません。自分の中の熱意が削がれると感じる方もいるでしょう。
しかし小規模企業共済には、事業を始める段階からかけておくべき保険としての価値があります。具体的には以下のようなものです。
- 月々の掛金を自分で決められる
- 確定申告の際に、掛金が課税対象所得から控除される
- 廃業の際に共済金を受け取れる
- 掛金の範囲内で、低金利の事業資金貸付制度を利用できる
万が一の備えを早めにしておくことは、ビジネスマインドとしても重要です。
参考:小規模企業共済とは | 共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
補助金や助成金の申請ができる
世の中には、新たに事業を開始した者のために用意されている補助金や助成金の制度が数多くあります。事業を始めるにあたって資金調達は大切で、補助金や助成金の制度はありがたいものです。
しかし開業するときに補助金や助成金の申請をしたい場合、開業届が必要になるケースが多いのが現状です。つまり開業届を出さなかった場合、せっかくの補助金や助成金などを受けられないことになります。
せどりは基本的にそれほど多くの資金を必要としないビジネスモデルですが、いざというときのために制度を利用できるようにしておくことは大切です。活用できるものをフル活用するうえでも、開業届には重要な意味があります。
せどりを始めるにあたって開業届を出す3つのデメリット
開業届は基本的に「出すべきもの」といえますが、必ずしも出すことによってメリットだけを得られるわけではありません。開業届を出すことで発生するデメリットもまた存在します。具体的には以下のようなものです。
- 帳簿付けの義務が発生する
- 扶養から外れるおそれがある
- 失業保険を受けられないおそれがある
メリットに比べれば小さなことではありますが、把握しておくに越したことはありません。以下で詳しく解説します。
帳簿付けの義務が発生する
開業届が受理された時点で個人事業主となり、日頃の取引を帳簿に記載し、かつその帳簿を保管しておく義務が発生します。青色申告であるか白色申告であるかにかかわらず、帳簿はきちんと付けて保管しておかなければいけません。
帳簿付けの義務が発生するという意味では、開業届を出すことにはデメリットがあると表現できるでしょう。
とはいえ、せどりを始めてまとまった利益が出た場合には、開業届を出していなくても確定申告はしなければいけません。確定申告の際には自分の所得や経費をしっかり計算する必要が生じるため、どのみち普段から帳簿付けをしておく必要が出てくるでしょう。
したがってデメリットとはいっても、実際には、開業届を出したせいで作業が増えるわけではありません。
扶養から外れるおそれがある
開業届を出すことによって、いわゆる「扶養から外れる」状態になる可能性があります。扶養には具体的に社会保険上の扶養と税制上の扶養があり、それぞれについて理解しておくことが大切です。
社会保険上の扶養とは、たとえば健康保険のことです。加入している健康保険組合が「個人事業主は扶養の対象とはみなさない」と規定している場合には、たとえ収入が少なくても扶養から外れることになります。
税制上の扶養とは、配偶者などが扶養の対象となっていることを指します。たとえば妻がせどりを始めた場合、せどりによる所得が一定額を超えると夫の扶養から外れることとなり、扶養控除や配偶者控除を受けられなくなります。結果として所得税や住民税の負担が増えるおそれがあるため、慎重なシミュレーションを余儀なくされるでしょう。
失業保険を受けられないおそれがある
失業保険とは、雇用保険の被保険者が職を離れて求職活動しているにもかかわらず、次の仕事が見つからない場合に支給される手当です。
開業届を出すと個人事業主となるため、基本的に失業保険の対象から外れてしまいます。したがって前の仕事を辞めたあとすぐに開業届を提出すると、受け取れるはずだった失業給付を受け取れなくなるおそれがあります。
開業届を提出したにもかかわらず失業保険を受けると、不正受給とみなされる可能性があるため注意が必要です。
参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~について紹介しています。|厚生労働省
開業届の書き方と出し方
開業届は一定のフォーマットにしたがって記載し、提出しなければいけません。申請書は税務署で入手することもできますが、インターネットでダウンロードすることも可能です。
ここでは、とくに重要な以下の事項についてざっくりと解説します。
- 職業欄
- 屋号
- 提出先
さほど難しい内容ではないため、すぐに理解できるでしょう。ざっと読んで大筋を把握しておきましょう。
職業欄
開業届には、職業について記入する欄があります。注意点としては、せどりを始めるからといって、そのまま「せどり」と記載するべきではないことが挙げられます。せどりという言葉は職業を表す言葉として一般的ではないからです。
せどりを行う場合には、職業欄には「小売業」あるいは「卸売業」と記入しましょう。仕入れた商品を最終消費者に販売すれば小売業、事業者に販売すれば卸売業となります。
職業欄に記載する内容は、個人事業税に影響を与えます。小売業も卸売業も物品販売業のカテゴリーに含まれ、第1種事業として課税されます。
屋号
屋号の欄には、自分が使いたいと考えている名前を記載します。既に解説した通り、基本的には自由に名前を付けられますが、法人と間違えるおそれのある名前は認められていません。「○○株式会社」などの屋号は控えましょう。
屋号を決めることは義務ではないため、必ずしも何かを記載しなければいけないわけではありません。とくに屋号を決めていない場合には、記入を省略しても問題なく受理されます。
提出先
開業届の提出先は、一般的には納税地を所轄する税務署です。たとえば納税地が自宅であれば、自宅の住所を管轄する税務署に提出することになります。自宅とは違う場所に事務所を構えているのであれば、事務所の住所を管轄する税務署が提出先です。
要するに、せどりを行う「本拠地」を管轄する事務所に開業届を提出すべきということになります。税務署の所在地は、国税庁の公式サイトでチェックできます。
開業届を出すと会社にバレる?
副業としてせどりを行う場合、会社にバレたくないこともあるでしょう。明確に副業禁止とはされていないけれども、よい顔もされない、というケースはよくあります。
結論として、税務署に開業届を提出しただけで会社に副業がバレることはありません。これから事業を始めることを税務署に伝えただけであり、会社に何らかの情報が回ることはないからです。
しかし事業を始めて確定申告を済ませると、住民税の徴収方法によってバレるおそれがあることには注意が必要です。確定申告の際に住民税の徴収方法を「特別徴収」としてしまうと、せどりの所得を含んだ住民税が会社に通知されます。給与所得にかかる住民税より税額が多いため、会社は副業の存在に気づくでしょう。
確定申告の際には、住民税の徴収方法を「普通徴収」にしておきましょう。これにより、会社に対して通知が行くことはなくなります。
まとめ
せどりを始めるにあたって開業届を出すべきか、メリットやデメリット、具体的な書き方などについて解説しました。
本記事としては、せどりを本格的に始めるのであれば開業届の提出をおすすめします。金銭的なメリットが多く得られ、手元に資金が残りやすくなるからです。またデメリットのほとんどは、本格的に利益を出そうとする場合においてはあまり意味を持ちません。
一方で、確定申告が必要ない(課税所得20万円以下)ささやかな規模でせどりを行おうとしている場合には、開業届を出さないのも1つの選択肢かもしれません。扶養から外れてしまうなどのデメリットが目立ってくるからです。
ご自身がどのくらいの規模でせどりを行いたいのかをよく考えたうえで、最適な道を選びましょう。